ニュース報道や防災関連のトピックにおいては、降雨や地震などによって「土や斜面がゆるむ」というフレーズをよく耳にします。振動でボルトがゆるむ、気がゆるむ、寒さがゆるむなど、「ゆるむ」は一般市民にとって馴染みがあり直感的にも理解しやすいため、土や斜面のゆるみに対しても何となくイメージがし易いと思います。
ところで、技術レポートや論文において、土や斜面の「ゆるみ」というキーワードが用いられる頻度はそれほど多くないのが実感としてあります。これは地盤技術者にとっては「ゆるみ」の工学的な定義が曖昧であるため、その原因や安定性の評価、対策工法の選定など、地盤や斜面安定に関わる定量的な検討と直接結びつけることが難しいことに起因しているかもしれません。その意味で「ゆるみ」という用語は、地盤技術者であるなしを問わず口語体的な用いられ方をしているといえます。
一方、トンネルにおいてはNATM、シールド工法を問わず「ゆるみ土圧」は「真の土圧」と対比する概念として、Terzaghiのゆるみ荷重理論などトンネルの設計や施工に一般的に用いられています1)。ゆるみ土圧とは「トンネルの掘削や支保工・覆工の沈下によりトンネル上方の地山がゆるんで、ある範囲の地山重量が支保工・覆工に荷重として作用する土圧をいう」とされ、重力がゆるみ土圧の直接的な要因となっています。各種の基準書にも記載されている「ゆるみ」は、文語体として正式な地位を確立しているといえるでしょう。
Terzaghiのゆるみ荷重理論の例1)
斜面に話を戻すと、技術的な観点からは降雨や地震などによる土のゆるみのイメージとしては以下が考えられます。
① 土の間隙比の増大→せん断強度の低下
② 土の間隙比の増大→有効(水中)単位体積重量の減少
③ 土の変位の進行および残留変位→せん断強度の低下
④ 土の飽和度の上昇→土中のサクション(見かけの粘着力)の減少
⑤ 水みちの形成や派生的すべり面・侵食などの発生→初期安定環境の劣化
亀裂性の岩盤斜面のケースでは、不連続面の開口・亀裂進展や浸透水による間隙水圧・氷結圧の増大も、ある意味では「ゆるみ」の一形態と言えるかもしれません。
このように地盤や斜面におけるキーワードの一つである「ゆるみ」には、多くの構成要因が絡みあっているようです。裏を返せば複雑多岐にわたる現象を、これほど直感的かつ平易な表現で説明できる言葉は貴重であると言えるのではないでしょうか。ちなみに英語では土のゆるみを ”loosening of soil” としていますが、日本語と同じように「緩み・弛み」をイメージしているのは興味深いです。
参考文献
1) Mingfeng Lei, Limin Peng, Chenghua Shi:Calculation of the surrounding rock pressure on a shallow buried tunnel using linear and nonlinear failure criteria, Automation in Construction, Volume 37, January 2014, Pages 191-195