(その1)に続きます。
3.盛土の安定対策に関する見解の違い
造成規模が3000㎡超の谷埋め盛土の安定性を確保するため、本件現場では被告(建設会社)側は以下のような対策工法を提案・実施しています。
・セメント系固化材による盛土材の改良
・関連する各種の施工基準に対応した施工管理の徹底(段切り、巻出し・締固め管理な
ど)
・地下排水工、基盤排水工および水平排水工の実施
・急勾配あるいは高盛土箇所でのジオテキスタイル補強
・2次元円弧・複合すべり面(Janbu法)による常時および地震時安定計算
・施工中および施工後の変位計測管理
図-1 複合すべり面のイメージ1)
上記の対策工法は個々の内容としてはいずれも基本的なものではありますが、現地の状況や地盤調査結果などを踏まえると、3次元的な形状を有する谷埋め盛土であっても(その1)において示した判定基準式(1)により普遍的(一般的)な評価が行えるものと判断しました。
一方、原告からは以下のような反論がありました。
・各種排水工の目詰まり、破損や劣化による間隙水圧の上昇の危険性
・谷埋め盛土における表層地盤の増幅と水平設計震度の設定法
・盛土側面やすりつけ部における段切り工の評価
・一部において存在が予想されている高有機質土の対策
・セメント改良土と非改良盛土の境界面での水みちの形成や長期的安定性の評価
これら原告からの反論に対しては技術基準・指針、既往の施工実績、文献や自身の判断(経験)などに基づいて、意見書の作成において十分な説得力を有する対応を行うことができたと思います。
ただし、原告からの反論の内容を突き詰めていけば、いずれの項目に対しても「理論的」な完全回答を行うことは超難問であることは間違いありません。一例として水みちの予測や、地下排水工の健全性の状況把握などについては以前から引き続いている検討課題であると言えるでしょう。可視化できない地盤を相手にすることの手ごわさや、地震や豪雨などの自然現象の複雑性について改めて考えさせられた裁判でもありました。
4.おわりに
本件の裁判当時と比較すると、研究の進展に伴って技術基準類は整備されてきています。「盛土等防災マニュアル(案) 国土交通省」においては、過剰間隙水圧や盛土の地震時液状化・強度低下を考慮した安定解析、ニューマーク法による地震時変位解析や三次元解析(変形解析・浸透流解析等)など大規模盛土についての安定性評価手法が示されていて、より詳細な検討が可能となってきました。
参考文献
1) 260326_報道発表資料ver9(参考資料1)
国土交通省ホームページ (https://www.mlit.go.jp/common/001033345.pdf)より抜粋